雨の降る音
























「随分降ってんなぁ」

「そうだね」



そう呟く声は、二つ


空からはまるで恵みのような雨が、下へ下へと降り注がれていた

その雨の行く先は、何処なのだろうか

そんな事を呆然と思っていると、背の高い男が口を開いた



「どないする?止むまで待つか?」

「如何しようね、景も帰っちゃったし…」



『景』、それは恐らく人の名前だろう

背の高い男に比べて、頭一つ以上背の低い女がそう言った

さっきの声の主は、この二人だろう

女は憂鬱そうに空を見上げ、ただそこで立ち竦んでいる

男はそんな女を暫く見下ろし、同じように空をただ見上げた


その二人に暫く会話は無くて、沈黙と言うものが生まれた

だけど決して息苦しくなく、また暖かくも無い、中途半端な沈黙だった

しかしこの二人には、こんな雰囲気が普通なのだろう

居心地の悪い表情など、一瞬たりともしない

それが当然、それが当たり前、二人の中ではそういう形のものなのだろう



「本降りになったら、尚帰れなくなるよね」

「そやね…まだこの程度やけど、本降りになったら結構なもんに…」

「如何する?結局は濡れそうだけど」

「そやねぇ…」



やっと会話をしたと思ったら、あまりにその言葉たちは未熟というか、やはり中途半端に感じて

なんと言うかもどかしささえ覚えてしまう会話だった

答えなど決まっているのに、何故そんな事を聞くのか…

云いたい事など一つなのに、何故そうやって悩むのか…

理解不能、と言った方が正しいのかもしれない



「…ほな、行くか」

「いきなりかよ」

「ええやん別に」

「ええけど別に」

「……自分、下手やな」

「やかましい」



そう言うと男は異様なほど平べったい鞄を頭の上に被せ、薄く笑いながら女を見る

暫く恨めしそうにそれを見ていた女も、異様なほど軽そうな鞄を頭の上に被せ、ふぅと溜息一つ

それは呆れや、ましてや怒りのものではなくて

はたまた喜びでもなくて、至福を感じるものでもない


『未熟』『半端』『途中』


そんな言葉ばかり浮かんでくる(始まっているのに最後まで行きつかない、そんな感じばかり)

友人でもなく、恋人でもなく

嫌いな訳でなく、好きな訳でもない…?


何だか何もかもが半端すぎて、傍によって無理矢理にでも前に出してやりたい気持ちに駆られる

だけど、そんな事この二人には普通な事で当たり前

むしろこんな形でしか、関係を取れないような、そんな風にも見えてしまって

背中を押そうとする手を、その背中に届かせる事が出来ない

もどかしかった



「何処に行く?」

「…家じゃない?」

「……つまらんなぁ」

「じゃぁ何処行きたい?」

「…別にあらへん」

「なんだそれ」

「けど、そっち方がつまらんやん」

「家帰って飯食ってクソして寝ろ」

「…女やないやろ、自分」

「失敬な、これでも私は女です」

「詐欺」

「煩い似非天才」



他愛もない会話をしながら二つの影は、ゆっくりと前へ歩みだした

その足取りは軽く、しかし速さはゆっくり過ぎるほどゆっくり歩んでいた


その時、何かに気付いたかもしれない


これが、この二人の道なのだと

こうでなきゃ、二人ではないのだと

そうだから、この二人なんだろうと

何となく、今一気に理解した気がした




『もどかしい』


確かにそう思ってしまう二人の関係だけれど

これが二人にとって一番あっている速さで、一番あっている道なのだ

そうしなければいとも簡単に崩れて行きそうな、『過敏過ぎる関係』

だけど二人が一緒にいるなら全てを越えていけそうな『期待と予感』

なら自分は如何すれば良いのだろう

そんなに考えなくても良いのだ、二人は二人なのだから





























雨の降る音は、まだ続いている


















雨の振る音







あとがき



第三者視点からの小説は久し振りなのでドキドキしてます…。

一応忍足夢です。一度も名前出てこなくてすみません…、分かり辛かったですよね;